バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 モダン・オーケストラで聴くC.P.E.バッハ「シンフォニー Wq183」の響き

 オランダ「ラジオ 4」のアーカイブズでニコラウス・アーノンクール(Nikolaus Harnoncourt, 1929- )の演奏を発見。コンセルトヘボウ管弦楽団とのコンサートが3回分で、その中に今から30年前、1982年3月26日に演奏されたカール・フィリップエマヌエル・バッハCarl Philipp Emanuel Bach, 1714-1788)「シンフォニー ニ長調 Wq183-1」の録音を聴く。

 アーノンクールの演奏記録の中にこの日の曲目が書いてあるのだが、コンセルトヘボウ管弦楽団のライブ録音集「Anthology of the Concertgebouw Orchestra」にも収録されなかったので、ずっと「彼が指揮するC.P.E.バッハはどういう演奏だったのだろう?」と思っていた。

 「Wp183」という整理番号が与えられた4つのシンフォニーは、ハンブルク時代の1775-6年に作曲された作品で、カール・フィリップ・エマヌエル自身が、それまでに作曲した管弦楽曲の中で最大の作品と言っているものだ。例によって、エネルギッシュであるだけでなく、様々なレトリックに満ちあふれている。アーノンクールとコンセルトヘボウの演奏は、いくぶん余裕のあるテンポをとっているものの、16分音符のフレーズ、あるいは8分音符の順次進行にアーティキュレーションを厳密化するためのスラーを追加することによって、作曲者の言説を「音のドラマ」として紡ぎ出すことに成功している。また、冒頭で弦楽器がシンコペーション・リズムを明確にするため、ノン・ヴィブラートと鐘の音のように減衰する「ベル・サウンド」を効果的に使っているのも印象的。30年前にこれだけのことができたのは、コンセルトヘボウの高い合奏能力に加え、音楽的な柔軟性と理解力があってのことだろう。テルデックは惜しいことをしたな。「ジュピター交響曲」と一緒にレコーディングしていたら、素晴らしい財産になったものを。
 イル・ジャルディーノ・アルモニコのリーダー、ジョヴァンニ・アントニーニ(Giovanni Antonini, 1965- )がベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮した「シンフォニー ヘ長調 Wq183-3」最終楽章のビデオもなかなか見応えがあるぞ。

 エマヌエルの作品が要求するテンションを現代のコンサート・ホールで実現するには、一糸乱れずに弾きまくれるということだけではなく、思わぬところで出現する「p(ピアノ)」の部分を、どれだけ表現力を持って「しれっと」演奏できるかが勝負になる。このふたつを音楽的に不自然ではないように演奏できるかという点において、ベルリン・フィルの技術的な高さと感受性がこの上ない貢献をしてるのではないか。さすがだな、ぜひ他のシンフォニーも演奏してもらいたいものだ。
 

2016.03.07追記

 ニコラウス・アーノンクールが2016年3月5日に亡くなった。オランダ「ラジオ 4」のサイトにはアーノンクール追悼ページが設けられ、何年ぶりかでエマヌエル・バッハのシンフォニーを聴くことができる。