バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 アーノンクールとCMW 2010 - その3 (2010年11月2、3日 東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル)

ニコラウス・アーノンクール(Nikolaus Harnoncourt, 1929- )とコンツェントゥス・ムジクス(Concentus Musicus Wien)の「最後の来日公演」、その5日目と6日目のコンサートに行ってきました。

いよいよ最終プログラムのモーツァルトです。「ポストホルン」→「ハフナー」の順で演奏されると予告されていましたが曲順が変更となり、またアンコールも1曲演奏されました。

  1. 2つの行進曲ニ長調 K.335 (320a) より第1曲 + セレナード第9番ニ長調「ポストホルン」 K.320
      【休憩20分】
  2. 交響曲第35番ニ長調「ハフナー」 K.385
  3. アンコール : 6つのドイツ舞曲 K.571 より第6曲ニ長調
     

ポストホルン・セレナード

舞台に登場したアーノンクールがコンツェントゥスの前に立ち、腕を上げるその瞬間からただならぬ気迫が伝わってきました。あらゆる表情を「響き」として具現化するために、イン・テンポをも基本と「しない」モーツァルトがそこにありました。
アーノンクールにとってモーツァルトは「ロマン派の入り口に位置する存在」(『音楽芸術』1987年9月号p.100掲載)です。1980年にフェーリックス・シュミットによって行われたインタビューで彼はこう述べています。

アーノンクールモーツァルトにアポロ的均整を押しつけるのは馬鹿げています。彼の音楽はもっとも多様な形を示し、分裂しています。むろん美しさ、快い響きもあるが、それは要素の一つでしかない。モーツァルトはいつもドラマティックな対決を思い浮かべていたのです。そう見れば、ソナタ、ピアノ協奏曲、交響曲、どれもが歌劇なのです。筋と、問いと答えがあります。誰が問いかけ、誰が答えるか、これがはっきりすれば、演奏解釈は楽です。ただ、そのとき雑多な知識をいっさい忘れる必要がありますが。
(『レコード芸術』1985年6月号p.31掲載)

オペラシティコンサートホールでの演奏は、まさにこの言葉を実践するかのような内容でした。演奏会に先立つ2010年11月1日に行われた公開リハーサルでは「ポストホルン」について、行進曲で「モーツァルトの友人たちが集ま」り、第2-4楽章では友人達の性格を表現(第3楽章の木管のソロは4人の友人を表す)、ニ短調の第5楽章において分かれを悲しみ、終楽章で「友人たちは郵便馬車に乗って故郷の国へそれぞれ帰」る、と解説したそうです(こちらのブログから引用させていただきました)。コンサートではコンツェントゥスのメンバーが、非常に生き生きと、まるでそのストーリーの登場人物であるかのように、またある時はストーリーの語り部であるかのように演奏していたのが印象的でした。
なお、アーノンクールは「ポストホルン・セレナード」を1984年にシュターツカペレ・ドレスデンとレコーディングしていますが、この録音が発売された当初、「2つの行進曲」K.335は「ポストホルン」の前に第1曲が、終楽章の後に第2曲が置かれていました。現在発売されているCDでは「ポストホルン」の後に、行進曲の第2曲、第1曲の順でまとめて収録されているようです。
 
モーツァルト:ポストホルン・セレナード
 

ハフナー交響曲

ハフナー交響曲は、アーノンクールがモダン・オーケストラであるコンセルトヘボウ管弦楽団を指揮して最初に演奏したモーツァルト交響曲です。こちらの公演記録では1979年3月30日にアムステルダムで、「魔笛」序曲、「エジプト王タモス」と共に演奏されたとありますが、その様子は「コンセルトヘボウ・アンソロジー 1970-1980」で聴くことができます。また、翌1980年にTeldecによりスタジオ録音されたものは、現在でもCDで入手可能です(このCDはリンツ交響曲とのカップリングになっていますが、初版LPは交響曲第34番とカップリング)。
 
Anthology Live 1970-80: Royal Concertgebouw モーツァルト : 交響曲第35番「ハフナー」&第36番「リンツ」
オペラシティでの演奏は、それから31年の時を経て古楽器オーケストラであるコンツェントゥス・ムジクスとによるものです(ただ、そのオーケストラの中に、フルートがいたにもかかわらずクラリネットが参加していなかったのは意外でした)。特に興味深かったのは、1980年の録音と同じようなアーティキュレーションの厳密化が図られていたことです。アーノンクールの著書『音楽は対話である』には「モーツァルトにおける演奏解釈の指示 : 楽譜に書かれていない演奏習慣について」という章があり、その中でハフナー交響曲の第4楽章に言及している箇所があります(p.162-163)。今回の演奏でも、その譜例にあるのと同じスラーがつけられており、耳だけではなく目でも確認できたことはちょっとした収穫でした。
 

 
最後に、気がついたことをメモしておきたいと思います。

  • オケの配置:弦楽器はハイドンの時と同じく、左からファースト(8名)、チェロ(3名)/コントラバス(2名)、ヴィオラ(4名)、セカンド(8名)という対向配置。
  • 管楽器は弦の後ろに1列。左からホルン、ファゴット、フルート、オーボエ、トランペット、ティンパニ、(アンコールでシンバル2名)。
  • 「ポストホルン」第2楽章メヌエットのトリオ、弦は1パート1人で演奏。バスのパートはセレナードの流儀に従いコントラバスのみ。
  • 「ポストホルン」第6楽章メヌエットの第1トリオでフラジオレット(?)を吹いたのは2番オーボエのマリー・ヴォルフ(Marie Wolf)女史。第2トリオでポストホルン(もちろん無弁)を吹いたのは、プログラムによるとアンドレアス・ラックナー(Andreas Lackner)。
  • ポストホルンは音量の大きな楽器であることを実感。さすが野外楽器。
  • 天地創造」にはクラリネットが参加していたのに、ハフナー交響曲クラリネット抜きで演奏された。
  • アンコールでは、ヴィオラの4名が打楽器を担当。前列2名がティンパニの隣でトルコ風シンバル(小・大)、後列2名がヴィオラの席でサイズの違うタンバリンをジャラジャラ。

11月2日の公演後にはサイン会が催され、ロビーにはものすごい数の人が並んでいました。

参考リンク