バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 くにたちバロックアンサンブル、ノン・ヴィブラートの源流

くにたちバロックアンサンブルバロック音楽を専門とする弦楽アンサンブルですが、原則としてヴィブラートをかけません。それはなぜかというと、ヴィブラートをかけると長い音の後ろの方がテヌートになる傾向があり、次のフレーズとつながってしまうからです。
これは「語り」という要素の強いバロック音楽を演奏するときに、あってはならないこと。逆に言うと、フレーズを短くとる限りにおいて、ヴィブラートをかけ続けることは不可能だと思うのです。
私が初めてノン・ヴィブラートによる合奏を行ったのは1980年代の前半、まだ大学生の頃です。その頃は、ちょうどクリストファー・ホグウッドによるモーツァルト交響曲全集のプロジェクトが進行中で、18世紀以前にはヴィブラートというものが存在しなかったなどということが、ホグウッド達との活動とはまったく関係なく、まことしやかに雑誌などで言われていました。もちろん実際にはそんなことはなく、ジェミニアーニレオポルド・モーツァルトの教本にも「音を揺らす」技法についての記述があります。
1992年から活動をはじめたくにたちバロックアンサンブルでも設立当初からノン・ヴィブラート奏法を心がけてきましたが、最初はなかなか上手くいかず、ただ雑な音になるだけでした。しかし、最近はウィーンホール風のホールなどホールの音響にも助けられ、ありがたいことにお客様にもそれなりに喜んで頂けているようです
ところで、ノン・ヴィブラートによる演奏で私が「もっとも」影響を受けたのは、ニコラウス・アーノンクールやロジャー・ノリントン達の演奏ではなく、実はクロノス・クァルテットKronos Quartet)によるものです。

1980年代に、はじめて彼らの演奏を聴いたときには衝撃が走りました。その演奏は決してかしこまらず、誰に媚びることなく強い信念に基づき、それでいて作品には最大の敬意を払っていることがよくわかりました。
来日コンサートにも通いましたが、ピーター・スカルソープPeter Sculthorpe, 1929- )、フィリップ・グラスPhilip Glass, 1937- )、ケヴィン・ヴォランズKevin Volans, 1949- )など、ヴィブラートを徹底的にコントロールすることで作品の本質に切り込んでいく演奏には圧倒的な力がありました。
フォクシー・レディー」のヴィデオにも驚くほど多様なヴィブラートを聴く(見る)ことができます。しかし、それはもう一方で「ノン・ヴィブラート」という前提があってのことなのは誰の目(耳)にも明らかです。
アーノンクールは、旋律にヴィブラートがかかるのはかまわないが、内声はノン・ヴィブラートでなければならないと言ったそうです。くにたちバロックアンサンブルのこれからの課題は、いかにして適切なヴィブラートを使用するかという点になるのかもしれませんが、これについてはもう少し時間がかかることでしょう。