バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 穏やかな時間を運ぶ者

うちの近所に「ミーちゃん」と呼ばれる猫がいます。小柄な雌の三毛で、おとなしく、争いを好まず、そして人懐こいので皆に愛されています。熱心に世話をする方がいらして、夕方になると、ミーちゃんがその方を待って道端に座っているのをよく見かけます。
ミーちゃんはとても穏やかで、決して大きな声を出しません。私たちの顔を見ると寄ってきては伸びをするような「お愛想」をふりまくので、猫好きの家内はよく撫でたりして遊んでいました。ミーちゃんに向かって小さな声で「みゃぁ」と言うと、ミーちゃんも小さくしゃがれた声で「マー」という声で返してくるのがかわいらしく、私も見かけるたびに声をかけたものです。また、ちょこんと座る時に前足が少しクロスするので「モデル立ちだね!」と言って家内とよく笑いました。ミーちゃんの周りには、本当に穏やかな時間がながれており、私たちはそのお裾分けに預かっているというわけです。
この夏の暑さは本当に酷いものでした。熱中症で何人もの方が亡くなられましたが、野良猫にとっても厳しかったに違いありません。少しでも涼しい場所を探そうとするせいか、風通しの良い屋根の上や、冷たいコンクリートの上でぺったりと横になっている姿を何度も見かけました。そして、その身体が日に日にやつれてゆくのがよくわかりました。私たちは「早く秋になって涼しくなりますように」と願わずにはいられませんでした。
9月も半ばを過ぎ、ようやく暑さがとれてきました。一端良くなったように思えたミーちゃんの様子が、数日前から思わしくなくなってきました。遠くまで行ってしまい、帰ってくる元気がなくなっていたからでしょうか、お世話をしている方が抱きかかえて戻ってきたこともありました。そして一昨日、いつもならそんなところでそんなことはしないのですが、道ばたに横たわるようになり、昨日は声をかけてもあまり反応をしなくなってしまいました。
家内によると、昨日の夕方は、ミーちゃんがいつも過ごしていたアパートの階段の裏手でピンクのクッションの上に横たわり、息も細くなっていたそうです。しかし、夜10時過ぎに見に行ったときにはミーちゃんはいなくなり、クッションや水皿など、いっさいのものがなくなっていたとか。
ミーちゃんは、本当に穏やかな存在です。私は、姿の見えなくなったこの状態をどのように綴ったらよいのかわかりません。しかし、ミーちゃんのこと、ミーちゃんが運んでくれる穏やかな時間のことは、ここに記録として留めておきたいと思います。

2010.09.19 22:28追記:
ミーちゃんは、昨晩、お世話をしていた方の帰りを待ち、その腕の中で安らかな最後を迎えたのだそうです。
穏やかな時間をありがとう。心からの感謝を込めて。
合掌。