チャールズ・ナイディック&ロバート・レヴィン デュオ・リサイタル(2011年10月19日、東京文化会館小ホール)
先日、古楽器によるクラリネットとピアノの演奏会に行ってきました。
- チャールズ・ナイディック&ロバート・レヴィン デュオ・リサイタル
〔パシフィック・コンサート・マネジメント〕
http://www.pacific-concert.co.jp/news/view/262/%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%83%8A%E3%82%A4%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%AF%EF%BC%86%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%AC%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%80%80%E3%83%87%E3%83%A5%E3%82%AA%E3%83%BB%E3%83%AA%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%BF%E3%83%AB
曲目は以下の通り。
- シューマン「夜会小曲集」(「幻想小曲集」Op.73のオリジナル稿)
→ 「夜会小曲集」に関する参考文献 (PDF) - ブラームス「クラリネット・ソナタ第1番 ヘ短調 Op.120-1」
- 休憩 - - クララ・シューマン「ロマンス Op.22」 (C.ナイディックによるクラリネット版)
- ブラームス「クラリネット・ソナタ第2番 変ホ長調 Op.120-2」
- アンコール - - シューマン「ヴァイオリン・ソナタ第3番 イ短調 WoO27」より第3楽章インテルメッツォ
- ブラームス「クラリネット・ソナタ第1番 ヘ短調 Op.120-1」より第2楽章
ここでナイディックが使用したのは、19世紀の後半に活躍したドイツのクラリネット奏者、リヒャルト・ミュールフェルト(Richard Mühlfeld, 1856-1907)使っていたのと同じモデル。ミュンヘンの楽器製作者ゲオルク・オッテンシュタイナー(Georg Ottensteiner, ca. 1860-1879)が作成した楽器の現代におけるコピーで、ツゲ製の楽器です。ナイディック自身がその楽器を演奏する様子は、YouTubeで見て聴くことができます。
- Charles Neidich on the 2nd sonata Brahms - YouTube
http://www.youtube.com/watch?v=mKYH4vZzqDk
オッテンシュタイナーが作成したクラリネットの画像は、サウス・ダコタ大学にある「National Music Museum」のウェブサイトに掲載されています。
- Clarinets in C, B-flat, and A by Georg Ottensteiner, Munich, 1860-1879
〔National Music Museum〕
http://orgs.usd.edu/nmm/Clarinets/Ottensteiner/ChecklistOttensteiner.html
当日のプログラム中、シューマン「夜会小曲集」だけがA管のための作品、他はB管です(たぶん)。A管とB管の音色の違いはモダン楽器のそれよりもはっきりしているように思いました。A管の方は、細身のソプラノ・クラリネットを木で作ったらこんな音がするんじゃないか、みたいな感じ。B管の方は、特に「喉の音」より高いクラリオン音域の音がモダン楽器よりも明るく硬質。どちらの管も「喉の音」のあたりは少しぼやけた音色になるみたいなので、音域による音色の違いというのは、けっこう大きいのかもしれません。
ロバート・レヴィンが弾いたピアノはヨハン・バプティスト・シュトライヒャー(Johann Baptist Streicher, 1796-1871)が1871年に製作したピアノ。こちらはコピーではなくオリジナルです。2002年までオーストリアのブラームス博物館(Brahms Museum)にあったもので、現在は日本にある楽器なのだそうです。
- ブラームスの“音色”再現 足利で来月音楽会 愛用ピアノと同型器使用
〔下野新聞「SOON」〕
http://www.shimotsuke.co.jp/town/region/south/ashikaga/news/20110916/611269
→ 魚拓のキャッシュ
シュトライヒャーのピアノを生で聴いたのは初めてだったのですが、弱音の響きがモダン・ピアノよりも繊細で素晴らしい。また、低音の響きは頭打ちを喰らったような「う”ぉ〜ん」という鳴り方をして、エラールにも通じる音色だったのが興味深いところでした。
演奏はよく息が合っていたように思います。アンコールの最後に演奏されたブラームス「第1ソナタ」の緩徐楽章では、最後の音が消え入る瞬間にロバート・レヴィンがその音を胸に抱くような仕草をしたのが印象的でした。きっと、誰の耳にもその響きは忘れられないものとなったに違いありません。