バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 フィリップ・グラス「サティアグラハ」みたび

 結局、某所に20時30分までいたので、残念ながら3度目の「サティアグラハ」(METライブビューイング)は叶わなかった。もう一度観ておきたかったな。最後の場面で、シンプルなメロディーを歌い重ねる度に、気高さと崇高さが増してくるあのガンジーの姿を。

 YouTubeで、ガンジーを歌ったリチャード・クロフトが、作曲者フィリップ・グラスのピアノ伴奏でこの場面を歌っているビデオを発見。ヤマハのピアノを弾く作曲者の腕前は、残念ながら完璧とは言い難いものがあり、クロフトも歌いにくそうなところがある。しかし、興味深いのはグラスの演奏が非常に叙情的であるということだ。ただ機械的に前進するのではなく、ひとつひとつの和音を慈しみながら、その意味を分散和音に託している。そして、歌手の呼吸がその慈しみを歌にのせて聴き手に届けている。
 今も思い出すのは、第3幕の舞台上で2つの「時間」が出会う場面だ。ガンジーとキング。現在と未来。時間と空間が出会い、クリスタルな輝きが「お空」の向こうへ延びていく。最終的に到達するのは「永遠」というところかな。

神は言う:
私もあなたも幾度もの生を経験している。
私はすべてを覚えているが、あなたは何も知らない。
正しき者が衰退し、非なる者が繁栄する時、私はこの地に誕生する。
非なる者を倒し、再び『善』をその座につかせるために。
 -- 《サティアグラハ》あらすじより

 演奏が終わるとその輝きも目の前からは消えてなくなる。それは本当になくなってしまったのか?いや、そうではなく聴き手の心の中に灯っている。言葉や音がなくても何かと繋がっているのを感じる瞬間。
 聴き手がクリスタルの中に閉じ込められるのではなく、クリスタルな輝きが聴き手の心の中に灯ったというところに、この公演の成功を見ることができるのだろう。素晴らしい作品。素晴らしいメトのプロダクション。