バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 ケン・ラッセル「ソング・オブ・サマー Song of Summer」

 今、「ソング・オブ・サマー」を観ている。ケン・ラッセルKen Russell, 1927-2011)が1968年に作成した白黒のテレビ・ドラマで、フランスのグレー・シュル・ロワンに暮らす晩年のフレデリック・ディーリアス(Frederick Delius, 1862-1934)を描いている。一度観たら忘れることの出来ない印象的な作品。

 40分くらい過ぎたところでパーシー・グレインジャー(Percy Grainger, 1882-1961)が出てきた。そう、あのバッハをアレンジしたグレインジャー。「陽気な兄ちゃん」という感じでディーリアスの仕事を手伝っている。Wikipediaにもあるとおり、本当はエリック・フェンビー(Eric Fenby, 1906-1997)より随分と年上のはずなんだけど。また、無神論者であるディーリアスがボートの上でフェンビーに説教するところでは、エルガー、パリー、メンデルスゾーンの名前を挙げた後で、「イギリス音楽は宗教から脱しない限り良くならない」とかなんとか言ってる。まったく頑固で偏屈なじいさん(笑
 ディーリアスのような偏屈なじいさんや、グレインジャーみたいなやんちゃな兄ちゃんが実際に自分の周りにいたとしたら、振り回されちゃって大変だろうなと思う。しかし、それ故にドラマの中の彼らを嫌いになるかというと、そんなことは全然ない。むしろ、「どんな奴らだったんだろう」とか「その場に居合わせてみたい」と、そういう人物に対して特別な興味を抱かせてしまうあたりにケン・ラッセルの手腕があるのだろう。
 このドラマを初めて観たのは大学に通っていた頃だったかな。音楽美学の先生から「ケン・ラッセルBBCで音楽関連の番組を作成していた」と聞いたように思う。ドラマのストーリーはフェンビーの回想録「Delius as I knew him」(1936年刊行)を基にしている。そして、フェンビーはラッセルとともに脚本の製作にも携わっていたようだ。「Delius as I knew him」は、Internet Archive で1948年のリプリント版を、PDFをはじめとするいくつかのフォーマットでダウンロードすることができる。また、Googleブックスでもその一部を読むことができる。

 2001年に発売されたDVDにはカットされた部分が若干あるようだ(→ Wikipedia)が、ビデオテープ版の冒頭部分にオルガンで映画の伴奏をしているフェンビーの姿が全くないということは、やはり同じような理由でカットされたのであろう。現在Amazon で買うことの出来る3枚組のDVDはリージョン・コードが「1」だから、日本の再生機器で観るにはちょっとした手間が必要になる。ちなみに、この2008年に発売されたDVDでは、冒頭で一瞬だけ劇場のオルガンの前に座っているフェンビーが映っている。
Ken Russell at the BBC [DVD] [Import]
 2012年はディーリアス生誕150周年という記念すべき年。にもかかわらず、このドラマを観るにはTSUTAYAでVHSテープをレンタルするしかない、というのは本当に残念なことだ。DVDボックスの日本版が発売されるとよいのだけれど。