バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 フライブルク・バロック・オーケストラのバッハ(2012年1月14日、風のホール)

 ここ何年か、くにたちバロックアンサンブルが演奏会を開く際にお世話になっている三鷹市の「風のホール」で、フライブルクバロック・オーケストラ(Freiburg Baroque Orchestra:FBO)のコンサート。曲目は、J.S.バッハ管弦楽組曲」全4曲。

 曲目は以下の通り。言うまでもないことだが、すべてJ.S.バッハ作曲。

  1. 管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068
  2. 管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV1067
         - 休憩 -
  3. 管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV1066
  4. 管弦楽組曲第4番 ニ長調 BWV1069
        - アンコール -
  5. 復活節オラトリオ BWV249 よりシンフォニア

 FBOは初来日なんだそうだ。何年か前から「今度来たら絶対聴きに行こう」と思ってたのだが、そういうこととは知らなかった。FBOはとても「好きな」アンサンブル。というより、リーダーの一人であるゴットフリート・ファン・デア・ゴルツ(Gottfried von der Goltz, 1964- )のファンなのだな。彼の無邪気で陽気な音楽の姿が、そして彼の魂が乗り移ったようなFBOのチャーミングな演奏が好きなのだよ。

 上のビデオで、向かって左から3番目の第3ヴァイオリン・パートを弾いているのがファン・デア・ゴルツ。けっこうお茶目な感じに見えるけど、ちゃんと音楽を通して意思の疎通を図りながら弾いている。だいたい、あさっての方を向いてあれだけ楽器を弾けるということは、自分のパートだけではなくスコアの大部分が頭の中に入っているということなんだよな。
 いろいろと書いておきたいことがあるのだが、まず、FBOの弦はヴィブラートをほとんどかけないから、必然的に音量が小さい。今日の「風のホール」は625席という中ホール程度の大きさで演奏をちゃんと聴き取ることができた。でも、東京オペラシティコンサートホールではどうだったろうか。
 というわけで、コンサートで気がついたことをメモ。今日はたくさん。

  • 弦楽器の人数は、第1,3,4番では、ヴァイオリンが4名ずつ、ヴィオラ3名、チェロ1名、コントラバス(フレットあり)1名。
  • 舞台での配置は、真ん中にチェンバロ。弦楽器はそれを挟むように左側にはファースト・ヴァイオリンとヴィオラ、右側手前にセカンド・ヴァイオリン、右手奥にチェロ、その後ろにコントラバスティンパニとトランペットは左手奥、つまりヴィオラの後ろ。木管は最前列で、チェンバロ先端の左側にオーボエ、右側にファゴット
  • 第2番のみ各パート1名ずつでコントラバスなし。配置は左からファースト・ヴァイオリン、セカンド・ヴァイオリン、ヴィオラチェンバロ、チェロ、トラヴェルソ
  • ヴァイオリン、ヴィオラティンパニトラヴェルソは立ったまま演奏。
  • 音楽の輪郭は明確に伝わってきた。たぶん、会場の大きさがFBOのサイズに合っていたからだと思う。
  • 繰り返しは最小限に抑えられていた。「序曲」のアレグロではリピートなし、舞曲でもダ・カーポ後のリピートなし。
  • リズムの扱いは、ほぼ楽譜通り(だと思う)。メヌエットは、ちょっとイネガルが入っていたかも。
  • 第3番「序曲」のアレグロは全曲テュッティで弾いていたが、第4番の「序曲」では合奏協奏曲のコンチェルティーノっぽく、弦楽器各パート1名ずつで弾いているところがあった。
  • 舞曲では、弦だけ、管だけで演奏する部分を設けるなど、楽器編成に変化をつけていた。
  • メヌエットにおいて、4分音符3つを「ダウン・アップ・ダウン」というボウイングで弾きはじめたので、さすがだと思った。しばらくして、音楽の流れに沿って柔軟にボウイングを変化させていたので、さらにさすがだと思った。ちなみに、同じ3拍子でもパスピエでは「ダウン・アップ・アップ」で弾いていたんじゃないかな。
  • 第3番「アリア」は、弦4パートのみでの演奏でチェンバロはお休み。本当に4人が対話しているような演奏で、ぞくぞくした。
  • 第2番でのトラヴェルソは、ずいぶんと即興が入っていた。3連符を挿入する所なんかで、ちょっとフレンチな香りがただようのが不思議だった。あと、ポロネーズは随分とアグレッシブな感じ。弦楽器が8分音符4つを「ダウン・ダウン・ダウン・アップ」とかで弾いてたりしてたぞ。

 箇条書きにすると味気ないけど、これらがファン・デア・ゴルツの無邪気でお茶目なリーダーシップの下、それぞれのプレーヤーが自発的に実践しているので、不自然なところがひとつもない。会場にいる全ての人間に対して、バッハの音楽が自然に語りかけてくるようだったな。
 「管弦楽組曲」を古楽器オーケストラで聴くのは、アーノンクールが指揮したコンツェントゥス・ムジクスの第1番・第3番以来だが、それとはまったく違ったアプローチで、本当に楽しく忘れがたいコンサートを聴かせてもらった。バッハに、ファン・デア・ゴルツ率いるFBOに、それから風のホールに心からの感謝を。