バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 ヘレンダール雑感

 ニコラウス・アーノンクールがハーグ・レジデンティ管弦楽団を指揮したヘレンダール「グランド・コンチェルト(合奏協奏曲)ト短調 作品3-1」の演奏は荒削りだが、この作品の悲劇的な側面が強く胸に迫り来る。絶望的とも感じられる終楽章のメヌエットとともに、一度聴いたら忘れられない演奏であることは間違いない。
 そんなこともあって、フェイスブックに「久しぶりにアーノンクールのヘレンダールを聴き直してみて、冒頭部分の自分のテンポ感がいつのまにかアーノンクールのテンポ感と同化していてワロタ」とかうっかり書いたら、めったにクリックされない「いいね」ボタンを2回もクリックされて2度ワロタ。うはっ。
  400 Jaar Nederlandse muziek
 CDの記載によると、この演奏は1975年のライヴ録音なんだそうな。アーノンクールにとって1975年というのは、「マタイ」「ヨハネ」両受難曲でモダン・オーケストラであるアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団との共同作業を始めた年であり、また、チューリヒ歌劇場での伝説的なモンテヴェルディ・ツィクルスが開始された年だ。
 このレジデンティ管弦楽団との演奏はヴィブラートがよくコントロールされており、たまに開放弦の音も聴こえてきたりと、いわゆる「ピリオド奏法」をモダン・オーケストラに適用した最も初期の記録でもある。メヌエット冒頭のメロディーにおける「ベル・サウンド(鐘の音のようなディミヌエンド)」を聴くだけでも、このCDを入手する価値があると思うぞ。いや、まじで。
 ひとつ前のエントリーでヘレンダールの楽譜のことを書いたけど、アーノンクールの演奏で興味深いのは、18世紀に出版されたパート譜と一致しない部分があるところ。バロック音楽において慣例となっているリズムの読み替え(8分音符→16分音符)や、アーノンクールが常用するアーティキュレーションを厳密化するための追加的なスラーなどは別にして、パート譜に記載されている強弱と違うとこがあったり(第3楽章の最後の部分)、あるべきスラーがなかったりする。
 何度かこのブログで紹介しているスコアは1959年に出版されたものだが、これは作曲者自身が出版に関与している1758年の初版を含む、18世紀に出版されたふた組のパート譜を基にして作られており、パート譜間の違いも一覧として掲載されている。しかし、アーノンクールの演奏との「違い」はその一覧にも序文にも報告されていない。
 ちなみに、このスコアには出版時点で判明しているパート譜の主な所蔵機関が書かれているが、その中にスウェーデン音楽図書館の名前はないんだな。もちろん、手書きスコアについての情報も報告されていないから、1959年の時点では知られていなかったヘレンダールの資料がまだ他にもあるのかもしれない、と思ってみたり。