バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 ウラジーミル・マルティノフ「The Beatitudes」

 新しい音楽との出会いは、いつも思いがけずやってくる。先日の出会いはウラジーミル・マルティノフ(Vladimir Martynov, Владимир Мартынов, 1946- )が作曲した「The Beatitudes」。どんなに困難な状況にあったとしても、明日という日を明るく照らす、そんな感じの音楽。

 Wikipedeiaによると、マルティノフは若い頃、ソヴィエトの中にあって「セリエル音楽の技法(もしくは十二音技法)」を用いた作品を書いていた。その後、ロシアの民族音楽ロシア正教会の聖歌、ルネサンスの作曲家達のポリフォニー音楽を研究することで、「彼ならではのミニマル・ミュージックを生み出」すことになったようだ。
 日本語のタイトルを「真福九端」とつけられた「The Beatitudes」も、柔らかなメロディーが何度も繰り返される。楽譜もないしロシア語もわからないが、おそらく下記のページにあるようなことが歌われているのだろう。

 この作品は合唱曲ではあるが、弦楽四重奏のために編曲され、クロノス・カルテットの最新アルバム「Music of Vladimir Martynov」の冒頭を飾っている。クロノスのリーダーであるデヴィッド・ハリントンはこの曲について「one of the great works of faith in our repertoire」と言っている。なるほど。

 ふと思ったのだが、「信」や「善」、「義」といった永遠に受け継いでいかなければならないものを表現するには、少しずつ装いを変化させながらも同じメロディーが反復されていくスタイルがふさわしいのかもしれない。一方でこの作品は、伝えるべきことがひとつであっても、まわりの様子如何によっては、そこから受ける印象が変化するということも教えてくれているように思う。まぁ、「記憶」とか「時の流れ」というのは本質的にそんなものなのかもしれん。
 あの震災から1年が経った。夜空には、あの日の夜と同じように星が瞬いている。星たちにとってみれば人間の1年なんてほんの一瞬なんだろうな。これからの長い年月を、記憶を語り続けていくべき長い年月を、星たちはどのように見届けてくれるのだろうか。