バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 ヘンデル「合奏協奏曲 ニ短調 作品6-10」

 ヘンデルが作曲した「合奏協奏曲 作品6」の数ある演奏の中で、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(Wilhelm Furtwängler, 1886-1954)が第二次世界大戦中の1944年2月8日にベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と演奏したニ短調Op.6-10 HWV328 の録音は、特に印象深く、忘れがたいものだ。

 現在主流となっている歴史的なアプローチによる演奏スタイルとはまったく無縁の、巨大な弦楽器群による、大柄でかなり自由な解釈による演奏。楽譜にはない恣意的なスラーやピチカート、大げさなポルタメントとかリタルダンド。なによりも、冒頭の重苦しいテンポに唖然とする人も多いだろう。「ヘンデルなのに!」みたいな。
 この演奏の1週間ほど前の1944年1月30日、ベルリン・フィルの本拠地であった旧フィルハーモニーが連合軍の爆撃で焼失した。この演奏は、シュターツオーパーに場所を移して行われた初のコンサートなのだそうだ。おそらく指揮者や楽団員たちは生命の危険を感じながらも、自らの音楽家の使命としてこのヘンデルを演奏していたに違いない。
 2011年3月11日、トリフォニー・ホールで決行されたハーディングと新日本フィルのコンサートの様子を伝えるドキュメンタリー「3月11日のマーラー」(NHK総合テレビ)を見る機会があった。指揮者や楽団員、そして当日の演奏を聴いた聴衆のインタビューを聞き、あらためて音楽というものが持っている力について想いを馳せる。フェイスブックにも書いたけど、そういうのっていうは、自分の中に言葉として置き換えられるものを見つけられないもんだな。
 昨年6月、くにたちバロックアンサンブル第8回演奏会でのスピーチでこんなことを言った。

 震災の5日前、3月6日の日曜日に私たちは西国分寺駅前のいずみホールというところで行われた市民文化祭で先程のコレッリを演奏しました。その時には、よもや数日後に大震災のような出来事が起きるとは思いもしませんでした。
 震災後、最初の練習で音を出した時、我々は音楽を通してお互いの無事を確認し合いました。顔を合わせてほっとするよりも、もっと深いところでつながったような、そんな感覚でした。
 そしてそれは、バロック音楽に限らず、音楽というものが持つ大きく不思議な力を実感した瞬間でもありました。
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 NHKのドキュメンタリーを見た感想は、昨年のスピーチ、そしてフルトヴェングラーが大戦中に命をかけて演奏した、素晴らしくも鬼気迫るヘンデルの中にある。たぶん、それが一番正確な言い方だと思う。