バーンスタインの弾き振りによるモーツァルト「ピアノ協奏曲第17番」
レナード・バーンスタイン(Leonard Bernstein, 1918-1990)が弾くモーツァルトが好きだ。ピアノ協奏曲しかり、ピアノ四重奏しかり。ピアノ協奏曲では第15番K.450、第17番K.453、第25番K.503、そして3台のピアノのための協奏曲K.242の録音が残っていて、第17番にはビデオもある。オーケストラはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ムジークフェライン大ホールで1981年10月に録画されたもので、バーンスタインはベーゼンドルファーのピアノを弾いている。
- Bernstein - Mozart: Piano Concerto No. 17 - YouTube
第1楽章:http://www.youtube.com/watch?v=cTO77dwm6uk
第2楽章:http://www.youtube.com/watch?v=itiY352hgjM
第3楽章:http://www.youtube.com/watch?v=IvhxfXeGees
かつてニコラウス・アーノンクールは、バーンスタインの弾くモーツァルトのピアノ協奏曲を「無様式だ」と決めつけた評論家に対して怒りをあらわにしていた。アーノンクールとバーンスタインのつながりというのは想像しにくいかもしれないけれど、バーンスタインはハーバード大学の詩学講座で「答えのない質問」というレクチャーをしており、言語と音楽の親近性について論じているから、音楽を言語活動とのアナロジーで捉える点において、この二人には共通するものがあったのかもしれない。もっとも、このレクチャーは細川周平氏に「バーンステインは『答えのない質問』(1978)の中でチョムスキー流の生成文法を応用して作曲家の創造性について議論しているが、見るべきものはない」と書かれているけど(『音楽の記号論』p.185)。
それはともかく、このビデオではオーケストラの管楽器が舞台の上手(右側)に集められ、ソリストとしてのバーンスタインとお互いに正面を向き合ってアンサンブルを創り上げているのがおもしろい。特に第3楽章における自由なテンポの設定、音の形を紡ぎ出すような弾き方、木管ソロの対話的なやりとりは魅力的。作品が内包しているストーリーの輪郭がくっきりと浮かび上がってくる。それは、まるで登場人物が何人も出てくるオペラを聴いているかのようだ。
音による対話、そしてドラマ。ブリュッヘンとシュタイアーのコンビによる演奏とは方法論が異なるかもしれないけれど、見据えている先にあるものはそれほど違わないのではないかな。どうだろ。