バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 ジョン・ケージ「Four4」

 2012年はジョン・ケージJohn Cage, 1912-1992)の生誕100年、没後20年の記念の年。今朝(2012.04.21)の日経文化欄に「ケージの音楽、輝き新たに 生誕100年で記念公演 : 偶然性重んじ脱西洋を意識」という記事が出ており、日本で今年行われる主なイベントをまとめていた。

 今年は20世紀の音楽や現代アートに大きな影響を与えた米国の作曲家、ジョン・ケージの生誕100年に当たる。各地で記念公演が始まった。実験的、前衛的な作風で知られるケージ。音楽と他のアートとの境界を取り払ったメディアミックス、西洋中心の価値観からの脱却、自然との共生といった今日性が注目されている。
 -- 『日本経済新聞』2012年4月21日付朝刊

 ケージの音楽というと「4分33秒」が有名だ。演奏者は何も音を出さず、時間の縁取りだけが指定されており、聴き手は、日常から切り取られた4分33秒という時間の中に聞こえてきた音を聴く、というアレ。誰でも、どこでも、いつでも「ひとり4分33秒」ができるので、是非おためしあれ。
 ケージの作品を実演で聴いたのは、ただ1回しかない。が、その「1回」がこれ以上ないと言っていいほど素晴らしい内容だったので、2度とケージを聴きにコンサート・ホールへ足を運ぼうとは思わない。それは?
 それは、ケージが8月に亡くなって3ヶ月経った1992年11月18日、上野公園にある旧東京音楽学校奏楽堂で行われた「Four4」の世界初演だ。「Four4」は4名の打楽器奏者のための作品で、ケージの遺作となったもの。演奏はハンガリーの打楽器グループ「アマディンダ Amadinda Percussion Group」で、この作品は彼らのために書かれた。

 冒頭に「チ〜ン」と鈴(りん)が鳴り、演奏が始まったのを今でも覚えている。あの時「もしや」と思ったが、こちらのサイトによると、やはり「ケージ追悼」という意味が込められていたようだ。
 「Four4」の演奏時間は72分。これはアマディンダがケージの打楽器作品全集の録音を進めており、その中のひとつとしてCDに収録されることを意識して作曲されたからなのだそうだ。
Four4/Legacies 4
 演奏会場となった“奏楽堂”はガラスの窓が付いた木造の歴史的建造物で、11月ということもあって、ホールのまわりでは秋が深まっていた。ケージの作品は演奏者が沈黙する部分が多く、この古めかしいホールには、壁やガラス窓の向こうで鳴る風の音や虫の音なんかが聴こえてくる。そして演奏が進むにつれ、それら外界の音が、アマディンダがたまに発する打楽器の音とともに、ケージの作品の一部になっていった。それは、ケージという人の深遠さ、そして彼の作品が持つ奥深さに気付かされた瞬間でもあった。
 「4分33秒」はケージが行き着いた先と言われる。いや、今はどうか知らないが、1990年代のはじめ頃にはそう言われていたように思う。しかし「Four4」は、「4分33秒」を72分に拡大し、それを作品の縁取りとして、「4分33秒」的な「沈黙」の中にケージの(非常に緩くであるとはいえ)「意図された音」をちりばめるように構成(compose)した作品だから、その先を行っているのではないのか。
 “奏楽堂”でのコンサートを聴き終えた後、数日間「耳の聞こえ」がとても良くなった。嘘みたいに聞こえるかもしれないけど、自分でも驚くほど細かい音まで聞きとれるようになった。ケージは日常から時間を切り取り、その中にある音に耳を澄ますような作品を書いたが、良い食材を摂ると身体の中がきれいになるように、良い音楽を聴くと聴覚が研ぎ澄まされるということがよくわかるコンサート=体験だったな。あの時の録音がまだ残っているのなら、DATテープが劣化しないうちにCDかなにかにすればよいと真剣に思う。
 というわけで、アマディンダのCDを聴く際には、SN比の悪い部屋で聴いてみてはどうでしょうか、っていう。いやマジで。