フィッシャー=ディースカウ追悼
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(Dietrich Fischer-Dieskau, 1925-2012)が亡くなったそうだ。心からご冥福をお祈りしたいと思う。
彼の名前を聞いて真っ先に思い浮かぶのは、やはりロラン・バルトの「声のきめ」というエッセイ。そして、次に思い浮かぶのはマーラーのCD。ただし、フルトヴェングラーと共演した「さすらう若人」ではなく、レナード・バーンスタイン(Leonard Bernstein, 1918-1990)がピアノ伴奏で共演しているライヴ盤である。収録されているのは、1968年11月8日、リンカーン・センター内フィルハーモニック・ホール(現エイヴリー・フィッシャー・ホール)でのリサイタル。
「声のきめ」にも書かれている通り、フィッシャー=ディースカウの歌唱は身体的ではない。ごつごつした感じがなく、とてもなめらかである。一方、バーンスタインのピアノは情動的で、響きがごつごつしている。水と油のようではあるが、ふたつの音楽が合わさったとき、マーラーの内向きな世界に広がりがもたらされ、光が外へ向けて輝き始めるのが不思議だ。このリサイタルのCDは、その直前(1968年11月4-6日)にスタジオ録音されたものより流れが自然で、統一感のある感じに仕上がっているのではないかな。
フィッシャー=ディースカウが亡くなった5月18日は、作曲家グスタフ・マーラー(Gustav Mahler, 1860-1911)の命日でもある。このリサイタルの最後に演奏された「リュッケルト歌曲集」の「真夜中に Um Mitternacht」は、こんな歌詞で閉じられている。
Um Mitternacht 真夜中に
Hab' ich die Macht 私は私の力を
In deine Hand gegeben! あなたの手に委ねます!
Herr! über Tod und Leben 主よ! あなたは死と生の
Du hältst die Wacht 見張りをして下さいます
Um Mitternacht. 真夜中に
-- http://homepage2.nifty.com/einstein/ubersetzung/Kindertotenlieder_ua.html より
今晩は、このCDを聴きながら眠りにつくことにしよう。きっと、いつもとは違った「明日」という日が待っているに違いない。