バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 グレインジャーのアレンジによるダウランド「今こそ別れねばならぬ」

 ジョン・ダウランド(John Dowland, 1563-1626)に「今こそ別れねばならぬ Now, oh now I needs must part」という曲がある。1597年に出版された「歌曲集第1巻 First booke of songs or ayres」の第6曲。「メランコリー」を身にまとった作曲家らしく、こんな歌詞で始まる。

Now, O now, I needs must part,
Parting though I absent mourn.
Absence can no joy impart:
Joy once fled cannot return.


今こそ、おお今こそ、別れねばならぬ
たとえ別れが不在の嘆きをもたらそうとも。
不在から喜びを得ることはできない
一度去った喜びが帰ってくることはない。

 この歌にはリュート版があって、それにはどういうわけか「蛙のガリヤード The Frog Galliard」というタイトルが付いてる。リュート奏者アンソニー・ルーリーによるとダウランドは陽気な人だったらしいが、このガリヤードからは作曲者のちょっとした笑顔が浮かんでくるかのようだ。

 で、パーシー・グレインジャー(Percy Aldridge Grainger, 1882-1961)がピアノ・ソロのためにアレンジした「Now, oh now I needs must part」だが、いかにもグレインジャーらしく、ピアノの音域を上から下まで使い、エレガントなドレスでダウランドの原曲を包み込んでいる。ロマンチックかつ甘酸っぱいモノローグ。

 バッハやドビュッシーのアレンジと同じく、ここでもグレインジャー・ワールド全開。ピアノ1台2手という制約を感じさせないアレンジの技法、なんといってもピアノの音が濁らず、いつもきれいに響いているのが大変よろしい。もちろん、そう聴こえるのはピアニストの技量に負うところも多いんだろうけどさ。
 ダウランド本人がこのアレンジを聴いたら何て言うんだろうな。