バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 フィリップ・グラス「サティアグラハ」ごたび

 昼飯時、窓の下には2匹の犬を連れて散歩途中のおっちゃん。立ち止まって、袋から何やら取り出してむしゃむしゃ食べてる。そして、キラキラした瞳で飼い主に寄り添う犬2匹。やっぱ、犬の眼にも魅力的に映るんだろうな。
 6月から月曜日が休みとなり、朝からYouTubeのビデオを観ている。フィリップ・グラスPhilip Glass, 1937- )の「サティアグラハ Satyagraha」、2011年11月19日にメトロポリタン歌劇場での公演。

 映画館でメトのオペラを上映する「METライブビューイング」だが、結局この「サティアグラハ」とパスティーシュ「魔法の島」しか行けなかった。今にして思うと、このふたつは対照的な作品であった。今の時代を代表する作曲家が30年以上前に作った作品の再演と、バロック時代の複数の作品からマッシュアップされた新作の初演。抽象的なミニマリズムの音楽と修辞に満ちたバロック音楽。「非暴力、不服従」をモットーとする独立運動の師ガンジーのドキュメンタリーと、冒頭からプロスペローが妖精アリエルに向かって「お前を支配しているのは私」みたいなことを歌うおとぎ話。
 YouTubeにアップされている2011年のメトの公演とCDで発売されている1984年の録音とを比較して、あらためて「サティアグラハ」という作品が、現代音楽の中でも「古典」としての地位を確立しているな、と思った。演奏の正確さを求めるあまり、クラシックでは使われてこなかった「オーバーダビング」という手法を使って創り上げられた1984年の演奏は、グラスらしい客観性に貫かれた質の高いミニマル・ミュージックの一級品である。

一方、2011年のプロダクションでは、明らかにオペラの中で進行しているストーリーが演奏に影響を与えており、ガンジーが一人で歌う最後の「Evening Song」の場面では、オーケストラが奏でる分散和音の響きの中に自身の内側を見つめる「眼」が存在している。

 メトで「サティアグラハ」の再演が行われていた2011年11月のニューヨークでは「Occupy Wall Street」運動が起きていて、12月1日、作曲者フィリップ・グラスリンカーンセンターに集まった群衆の前でオペラの一節を読み上げた。このような出来事がオペラの上演時期に重なって起こるとは、誰も思わなかっただろう。

 「サティアグラハ」は客観的なミニマル・ミュージックのオペラとしてこの世に生を受けた。そして、30年という時の流れの中で、1人称的な「眼」を育み、さらには社会の中へ溶け出し、人々の心の支えとなった。「作品」というのは、こうやって成長していくんだな。