バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 くにたちバロックアンサンブル第9回演奏会を終えて

 2012年6月9日(土)、くにたちバロックアンサンブルでは三鷹市芸術文化センター「風のホール」で第9回演奏会を開催しました。あいにくの雨模様だったにも関わらず、200名程のお客様にお越しいただいたようだ。この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。

くにたちバロックアンサンブル第9回演奏会のステリハにて

 くにバロは1992年設立。今年は創立20年で、定期的に開催している自主演奏会もようやく9回を数えることとなった。今回は、定番となるヘンデルコレッリの「合奏協奏曲」のほか、ストーリーのあるテレマンドン・キホーテのブルレスク」、そして当団ではムファットと並んで抜群の人気を誇るヘレンダールの「グランド・コンチェルト」を演奏。休憩後のプログラム後半では、苦手なMCも入れ、ドン・キホーテの曲目紹介なんかをやってみた。お客様にお書きいただいたアンケートを見ると、それなりに好評だったようでほっとしている。
 MCで使う曲目紹介の原稿を演奏会の前日に仕上げるつもりで仕事を休んだら、そんな日に限って、狙ったように業務上のメールやら電話なんかが自宅で飛び交う始末。なんだ、それ?
 というわけで、そんな状況下で仕上げた原稿を記録のためにここに掲載しておきます。この通りにしゃべったわけではないけれども、まぁ「こんなこと考えてました」みたいな感じ。

テレマンドン・キホーテのブルレスク」曲目紹介


 本日はお忙しい中くにたちバロックアンサンブルの演奏会にお越しいただき誠にありがとうございます。これから演奏するテレマンの「ドン・キホーテのブルレスク」という作品を、簡単にご紹介したいと思います。
 「ドン・キホーテ」というのは、17世紀の初め、今から約400年前にセルバンテスという人が書いた小説です。舞台はヨーロッパの西、イベリア半島はスペインの中央から少し右よりの内陸にある「ラ・マンチャ地方」。主人公アロンソ・キハーノは50歳手前のおっさんです。100冊以上の本を読み、騎士の世界にあこがれ、小説の中に書いてあることは全て本当にあったことだと信じています。そして、世の中の悪と不正を取り除くため、遍歴の騎士「ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ」を名乗り冒険の旅を続けます。
 「ドン・キホーテのブルレスク」、ブルレスクというのはいたずらっぽく誇張された、ユーモラスな曲に付けられることが多いタイトルです。テレマンヘンデルが活躍したバロック音楽の時代において、音楽は言葉や演説と同じだと考えられていました。言葉が意味を持つように、音楽でも、リズムや音の形、あるいは調性など、様々な要素に意味を持たせ、ストーリーを語るように音を紡いでいったのでした。だから作曲者テレマンにとって「ドン・キホーテ」のこっけいなストーリーは、料理のし甲斐があるものだったに違いありません。


1. 序曲
 「ドン・キホーテのブルレスク」は7曲からなる組曲の形をとっています。第1曲の「序曲」では、遍歴の騎士ドン・キホーテがどんな人物であったかが描かれています。甲冑を身にまとい槍を持った姿は、堂々とした和音と、力強い付点リズムで表されます。しかし、それに混じって、滑って転げ落ちるようなユーモラスな音も聞こえてきます。
  → 「序曲」1〜17小節演奏


2. ドン・キホーテの目覚め
 ドン・キホーテは暑い盛りの7月、夜が明ける前のある朝、痩せ馬ロシナンテにまたがり旅に出ます。世の中は不正や不合理にあふれており、それを正すのは自分だという強い使命感に目覚めています。音楽は、ギターを弾いているかのようなスペイン風のリズムにのって、夜明け前の薄暗い様子を描写しています。
  → 「目覚め」1〜16小節演奏(ギターあり)


3. 風車への攻撃
 さて、ドン・キホーテは、近所に住んでいた太鼓腹の農夫サンチョ・パンサを従者として従え、あらためて冒険の旅に出ます。すると、野原の行く手にたくさんの風車が立ち並んでいるのが見えてきました。ドン・キホーテはそれを長い腕を持った巨人と勘違いして、ロシナンテとともに槍を小脇にかかえて突っ込んで行きます。
第3曲「風車への攻撃」では、風車に突進して巨人と格闘し、はじき飛ばされる様子が描かれています。
  → 「風車への攻撃」1〜12小節演奏


4. ドゥルシネーア姫を思う愛のため息
 さてさて、騎士というものには「愛するご婦人」が、それもプラトニックに愛を捧げる貴婦人がつきものです。次の「ドゥルシネーア姫を思う愛のため息」では、バロック音楽でよく使われる「ため息の音型」が何度も登場し、美しい姫君に思いをつのらせるドン・キホーテが表現されています。
  → 「愛のため息」1〜10小節演奏(1カッコを飛ばして2カッコまで)


5. 胴上げされたサンチョ・パンサ
 場面は一転して「胴上げされたサンチョ・パンサ」に移ります。風車と格闘したあと、2人はいくつかの修羅場をくぐり抜け、ある宿屋に泊まります。ここでドン・キホーテは「私が読んだ騎士道物語の中では、遍歴の騎士が宿代を払ったことはない」と言いながら、逃げるように宿屋を出ていってしまいます。
 宿代を踏み倒したドン・キホーテに続いてサンチョ・パンサも宿を出ようとしたところ、同じ宿に泊まっていた男たちに捕まり、毛布をトランポリン代わりにして空中高く放り投げられます。
  → 「胴上げ」1〜10小節演奏


6. ロシナンテギャロップとサンチョのロバのギャロップ
 次の曲では、痩せ馬ロシナンテと、サンチョ・パンサが乗っているロバが紹介されます。ロシナンテの歩みは、痩せていてガタがきているせいか、ギャロップだというのに、どこかぎこちないもののように描かれています。
  → 「ロシナンテ」1〜8小節演奏(ギター、2拍目なし)
ガタがきているので、ロシナンテのわき腹には、たまに「蹴り」が入れられたかもしれないですね。
  → 「ロシナンテ」9〜16小節演奏(ギター、2拍目あり)
 一方、サンチョ・パンサのロバは、ロシナンテの後をユーモラスな足取りでついて行きます。
  → 「ロバ」33〜40小節演奏(bass:40小節1拍目まで)


7. ドン・キホーテの眠り
 セルバンテスの原作では、この後もドン・キホーテサンチョ・パンサの冒険は延々と続いてゆくのですが、テレマンは「ドン・キホーテの眠り」という曲でこの組曲を閉じています。
 ただこの曲は、安らかな眠りを表すものではありません。ドン・キホーテの頭のなかには、いつも戦いや冒険が渦巻いていることを示しています。
  → 冒頭1〜4小節演奏・繰り返しあり(ギター前奏なし)
そして戦う相手がこちら。
  → 13〜16小節演奏・繰り返しあり


 これで、「ブルレスク」に込められたドン・キホーテの物語は幕を閉じます。最後に、皆様も気になっている、こちらのギターについて演奏者に聞いてみましょう。
  → ギター奏者におまかせ


それでは、テレマン作曲「ドン・キホーテのブルレスク」の全曲を、通して演奏いたします。

 

追記

 演奏会当日の様子を Flickr にアップしました。よかったらどうぞ。