バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 黛敏郎「BUNRAKU」

 東京国立近代美術館60周年記念イベントで「Concerto Museo / 絵と音の対話」というのがあったらしい。2ヶ月早くわかってたら行けたのに。

 上記ページによると、近美が所蔵する絵画を前にしてのコンサートで、絵画のセレクトには演奏家も加わったという。

[前略] 所蔵品から選りすぐった絵画作品を前に、気鋭の演奏家たちが真夏の3日間にわたって繰り広げる「Concerto Museo」(コンチェルト・ムゼオ)。本館1階企画展ギャラリーにて無料でお楽しみいただけます。
楽家自らも美術作品のセレクトに参加、絵画から得るインスピレーションは演奏にどのような輝きを加えるのでしょう。絵画もそこではまた違った表情を見せるかもしれません。 [後略]

 3日間あるイベントのうち、最終日の今日はチェロと抽象絵画の出会い。展示されたのはゲルハルト・リヒター(Gerhard Richter, 1932- )「抽象絵画(赤)」(1994年)や、横山大観(1868-1958)「或る日の太平洋」(1952年)などとある。
 演奏されるのは4曲。J.S.バッハ組曲の他は、私たちと(ほぼ)同時代の音楽だ。

  1. J.S.バッハ無伴奏チェロ組曲第6番ニ長調 BWV1012」
  2. ティーヴ・ライヒチェロ・カウンターポイント Cello Counterpoint」(2003年)
  3. 黛敏郎「BUNRAKU」(1960年)
  4. カール・ヴァイン「インナー・ワールド Inner World」(1994年)

 ライヒの「チェロ・カウンターポイント」は8本のチェロのための作品で、あらかじめ録音された7パートをバックにソリストが演奏。ヴァインの「インナー・ワールド」はスティーヴン・イッサーリスのアルバム「チェロ・ワールド」の最後に収録されている作品だな。こちらもあらかじめ録音されたテープ(今はテープではないかも)との共演だったはず。とすると、無伴奏チェロのための作品と、テープとの共演作品が交互に並んでいたことになる。

 日本の伝統芸能のひとつである文楽の世界を描いた黛敏郎の「BUNRAKU」。その世界に鳴り響いている音を西洋のチェロという楽器に落とし込んだ時に産まれる「ちょっと違った視点から見えてくる風景」。そして研ぎ澄まされ、凝縮された時間。ピツィカートの使い方で譚盾(タン・ドゥン)の曲と共通するところがあるのだけれど、YouTubeやNMLの演奏を聴いて、ちょっとした弾き方や感じ方の違いで、和風にも中華風にもなるのがわかっておもしろかった。

 すっかり忘れていたのだが、「BUNRAKU」は大原美術館の創立30周年を記念する演奏会(1960.11.07)で、矢代秋雄の「ピアノ・ソナタ」とともに初演されている。大原美術館の「ギャラリーコンサートの歴史」によると、初演時のタイトルは「BUNRAKU」ではなく「無伴奏チェロのためのソリロクィ」だったそうだ。

 「BUNRAKU」は絵画に囲まれるようにしてこの世に生を受けた。今日のイベントでも、その素性にふさわしい響きが聴けたのではないかな。どうだろ?