バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 ヴォーン=ウィリアムズ「揚げひばり」

 このところ、頭の中でずーっと雲雀が鳴いている。もちろん本物の鳴き声ではなく、オーストラリア室内管弦楽団(Australian Chamber Orchestra)のリーダー、リチャード・トネッティ(Richard Tognetti)がヴァイオリンで奏でる雲雀の声。曲はレイフ・ヴォーン=ウィリアムズ(Ralph Vaughan Williams, 1872-1958)の「揚げひばり The Lark Ascending」。

Source: aco.com.au via Toru on Pinterest



 これまで、どの演奏を聴いてもそんなことはなかった。「なぜだろう」と思っていたのだが、「揚げひばり」の冒頭に書いてあるというジョージ・メレディス(George Meredith, 1828-1909)の詩の一節を読み返して合点がいった。

He rises and begins to round,
He drops the silver chain of sound,
Of many links without a break,
In chirrup, whistle, slur and shake.
 
彼(ひばり)は舞い上がり、周り始め
銀色の声の鎖を落とす
切れ目無く沢山の声の輪がつながっている
さえずり、笛の音、なめらかな声、震えるような声
  ― The Lark Ascending / George Meredith

 雲雀が落とす「響きの銀鎖」は、途切れることなくつながる求愛の歌なのだな。さえずり、笛の音、なめらかな声、震える声、それらは春を迎え銀色にきらめきながら降り注ぐ。そして、トネッティのヴァイオリンに張られた弦は、あるときには細くまっすぐなノン・ヴィブラートで、あるときには響きを揺らし声を震わせながら雲雀に代わって銀の鎖を紡ぎ出す。普通なら風景をなぞるような三人称の音楽になってしまいがちだが、ここで奏でられる音は雲雀自身が発する一人称の声だ。ヴァイオリンの弦が「銀を巻いたガット」だとしたらすごいな、まさにこの詩のとおりじゃないか(笑。この演奏が妙に頭に残るのは、そうやって「彼(ひばり) He」の声が直接私たちに語りかけてくるからかもしれん。
 先日この演奏を含むプレイリストを作ってみた(→ 関連エントリー)。「揚げひばり」から「二泉映月」へ移行するところを聴き直してみると、天高く舞い上がった響きが月の光にかわり、水面にその輝きを落とし込んでいるかのようだ。「揚げひばり」というのは春の季語らしいけど、日本ではあと少しで中秋の名月を仰ぎ見る頃となる。ということは、南半球のオーストラリアではちょうど「初春の頃」ということになるのかな?彼の地ではどんな声を響かせるのだろう。