空にあこがれ、空をかける
まっすぐに伸びる、目の前の坂から空の向こうへ、まっすぐに伸びていく白い道。そして空にあこがれ、自らの意志で空を駆け抜けていく命。その瞬間をうたう歌声はどこまでもまっすぐに伸びるノン・ヴィブラートだ。そこに見える光景を確かめたくて、生まれて初めてユーミンのCDを買った。
なぜユーミンの歌声がノン・ヴィブラートなのかずっと不思議に思っていたが、NHKの番組によると、アルバム「ひこうき雲」のレコーディング・ディレクターが荒井由実の声にかかる細かな「チリメン・ヴィブラート」を気に入らず、ノン・ヴィブラートで歌うよう指示したのが発端のようだ。YouTubeのヴィデオでは9分50秒のあたりから。
- MASTER TAPE 〜荒井由実 『ひこうき雲』 の秘密を探る〜 (FULL) - YouTube
http://www.youtube.com/watch?v=HyYg5eqcR98
実は「ひこうき雲」という曲をつい2日前まで知らなかった。「死」というものを正面から、極めてストレートに、まっすぐに歌いきっていることに心の底から感動した。そして、そうであるためには「ノン・ヴィブラート」という歌い方がどうしても必要であることもよくわかった。番組の中で、松任谷正隆は最後の「空をかけーてーゆくー」が地声だと言っていたが、ギリギリまで力を振り絞って、突き抜けるように歌い上げるまっすぐな声は、何度聴いても魂を揺さぶられる。
もしこの歌が深いヴィブラートで感情たっぷりに歌われていたらどうだったろう。空にあこがれ、空をかけていく命の軌跡を、これほど鮮明なイメージとして眼前に想い描くことがあっただろうか。