バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 空にあこがれ、空をかける

 まっすぐに伸びる、目の前の坂から空の向こうへ、まっすぐに伸びていく白い道。そして空にあこがれ、自らの意志で空を駆け抜けていく命。その瞬間をうたう歌声はどこまでもまっすぐに伸びるノン・ヴィブラートだ。そこに見える光景を確かめたくて、生まれて初めてユーミンのCDを買った。
ひこうき雲
 なぜユーミンの歌声がノン・ヴィブラートなのかずっと不思議に思っていたが、NHKの番組によると、アルバム「ひこうき雲」のレコーディング・ディレクターが荒井由実の声にかかる細かな「チリメン・ヴィブラート」を気に入らず、ノン・ヴィブラートで歌うよう指示したのが発端のようだ。YouTubeのヴィデオでは9分50秒のあたりから。

 実は「ひこうき雲」という曲をつい2日前まで知らなかった。「死」というものを正面から、極めてストレートに、まっすぐに歌いきっていることに心の底から感動した。そして、そうであるためには「ノン・ヴィブラート」という歌い方がどうしても必要であることもよくわかった。番組の中で、松任谷正隆は最後の「空をかけーてーゆくー」が地声だと言っていたが、ギリギリまで力を振り絞って、突き抜けるように歌い上げるまっすぐな声は、何度聴いても魂を揺さぶられる。

 もしこの歌が深いヴィブラートで感情たっぷりに歌われていたらどうだったろう。空にあこがれ、空をかけていく命の軌跡を、これほど鮮明なイメージとして眼前に想い描くことがあっただろうか。