バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 ジャン=ギアン・ケラスが奏でるブリテン「無伴奏チェロ組曲」

 昨年末、ネットでジャン=ギアン・ケラス(Jean-Guihen Queyras, 1967- )が演奏するブリテン無伴奏チェロ組曲」のCDを探したら軒並み品切れ。ダメ元で新宿タワーレコードに行ったら、運良く1枚在庫が残ってた。
Suites pour Violoncelle
 ケラスの演奏では、ともかく楽譜にある全ての音が聴こえてくる。多くの演奏家がハイスピードで弾き飛ばす第1組曲最後の無窮動ですらそうだ。思うに、それは楽譜として書かれた全ての音に意味を持たせているからなのだろう。「分析的」とでも言ったらよいのかな。作曲家の野平一郎氏は、2002年の来日公演でケラスが演奏したJ.S.バッハ無伴奏チェロ組曲」をこう評している。

野平: わたしは一番の組曲を聴いただけなのですが、あなたの言っている「新鮮さ」をとても感じましたよ。それが現代音楽との相互浸透によるものとは必ずしも思いませんでしたが、バッハの書いた音がすべて分析されているな、と感じたのです。
ケラス: そう言って下さるのはとてもうれしいです。バッハは、初めてセリー音楽を書いた作曲家ですから(笑)、その書式をもちろんよく分析して演奏には臨んでいますが、新鮮さを感じて下さったということは歓びです。
 ―― 「ジャン=ギアン・ケラス、野平一郎 対談/ 野平多美 編」より

 ケラスの演奏が分析的なのは、もしかしたらピエール・ブーレーズ率いるアンサンブル・アンテルコンタンポラン(Ensemble Intercontemporain)に10年間在籍していたことと無関係ではないかもしれない。また、彼はブリテンを「コンテンポラリー」ではなく「古典的な」作曲家だと言っているようだ。現代音楽を創造する最前線の現場にいた人ならではの捉え方。

JGQ ブリテンは、彼が生きた時代とは隔たりがある作曲家といえます。そして無邪気で子供っぽさを持った作曲家ですね。作曲法も語法も古典的ですが、とても純粋な率直さを備えています。
 ―― 「ジャン=ギアン・ケラス インタビュー (レコード芸術11月号)」(「野平多美が行ったインタビュー」)より

 また、「チェロ・ソナタハ長調 作品65」を演奏した2011年の来日公演のプログラムでは、ブリテンをロマン派の系譜に連なるものとしている。

今日において「ロマン派」という用語は多くの場合、愛とパッションを思い起こさせます。
[中略]
しかしその一方、人間の魂の永遠の孤独を表現したシューベルトの「冬の旅」、謎めいた世界への憧れと恐れが描かれているメンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」もあります。
ブリテンウェーベルンの作品は、こういったロマンティシズムの内面への最も優れた現代的エコーであると言えるでしょう。
[中略]ブリテンのチェロ・ソナタスケルツォメンデルスゾーンソナタスケルツォにもなり得るほど非常にメンデルスゾーン的です。
[中略]メンデルスゾーンソナタは古典的語法、輝かしさ、ノスタルジックな優しさが独特に混ざり合っています。
 ―― 「20世紀におけるロマンティシズムへのエコー」より

 さて、11月のブリテン・バースディ・コンサートではどのような演奏を聴かせてくれるのだろうか。楽しみであるなぁ。

   CELLOSUITEN

追記(2013.11.26)

 コンサートを聴いてきたので、その印象などをまとめてみた。