バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 サン=サーンス「バソン・ソナタ」再び

 1年前と1日前にフレンチ・バソンの神様モーリス・アラール(Maurice Allard, 1923-2005)が演奏するサン=サーンス(Camille Saint-Saëns, 1835-1921)最晩年の作品「バソン・ソナタ ト長調 作品168」について書いた。アラールの奏する木製サックスのようなバソンの音色、なめらかな美しさの中に「声のきめ」が感じられるその音色で奏でられた「バソン・ソナタ」は他の演奏では絶対に聴くことのできない独自の価値を持っている。

 もうこの演奏だけでいいやと思っていたのだが、ここにきてNMLで別の、それもドイツ式ファゴットで演奏した素晴らしい演奏に出会った。これは凄いぞ。
Bassoon Recita
 演奏しているマルク・トレーネル(Marc Trenel)はパリ管弦楽団ファゴット奏者。ムラなくなめらかに流れるその音楽は、メロディー楽器バソンのDNAを継いでいると言ってもよいのではないか。彼の演奏では、第1楽章真ん中あたりでテーマが再現されるところなど、音楽が満面の笑みをたたえているのがよくわかる。その嘘のないまっすぐな笑顔にやられてしまったのだよ。この「バソン・ソナタ」が作曲者最晩年の作品だということを忘れる瞬間。そしてテーマが最後にもう一度だけ戻ってくるところでは、サン=サーンスの音楽がちらりと笑顔で振り返って「じゃあ、またね」と言っているかのようだ。いや、本当にまいった。