バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 ラフマニノフ「チェロ・ソナタ ト短調 Op.19」

 ラフマニノフ(Sergei Rachmaninoff, 1873-1943)なんてめったに聴かないんだけど、「チェロ・ソナタ ト短調 Op.19」だけは別。1901年、つまり20世紀の始まりとともに生まれ落ち、聴きようによってはピアノ協奏曲や後の交響曲第2番が描き出した世界をチェロとピアノだけで再現できるようにコンパクトにまとめた「小型シンフォニー」とも言える作品。これまでに聴いた中では、若き日のシューラ・チェルカスキー(Shura Cherkassky, 1909-1995)がフランス往年のチェリスト、マルセル・ユベール(Marcel Hubert)と共演したSPレコードの復刻盤を特に気に入っている。1934-1935年の録音だから、ヘンリー・ウッドが指揮した「ロンドン交響曲」の前年の演奏ということになる。

 生演奏で聴いた晩年のチェルカスキーは、ピアノの音がとてもカラフルで、そこに再現される音楽のスケールがものすごく大きかった。制約の多いSPレコードでも、その特徴はよく伝わってくる。たとえば第3楽章において右手で奏でられるメロディーはたっぷりとした響きを伴っていて、現代ではなかなか聴くことのできないものだったり 。低域で強打される音が頭打ちをくらったような音色だから、もしかしたらチェルカスキーが弾いていたピアノはエラールのような歴史的モデルなのかもしれない。
 で、当分の間これでよいだろうと思っていたのだが、ここ数日、NMLで出会った別の演奏にはまり込んでいる。フランスのアンヌ・ガスティネル(Anne Gastinel)という女流チェリストが弾いているディスクで、ピアノ伴奏は、なんとあのピエール=ロラン・エマール(Pierre-Laurent Aimard)。
sonates pour violoncelle et piano
 ガスティネルが奏でる響きはしなやかで、時に人声のようになめらか。にもかかわらず、ピアノの打鍵音と張り合うことなく見事に溶けあっているのが素晴らしい。偶然とは言え、フランス人チェリストの演奏が重なることになってしまった。
 ところで、ハイフェッツがこの作品の第3楽章をヴァイオリンで弾いているのをご存じだろうか。「ベル・テレフォン・アワー」でのライヴ録音ということで、あの巨大CDボックスには収録されていない一品。これもまたよし。