シューベルト「交響曲第5番」
グレン・グールドのドキュメンタリー映画で、アントン・ウェーベルン門下の作曲家と対話する場面がある。インタビュアーである作曲家は「ウェーベルンはシャイは人物で、音楽もシャイだった」と言うが、それを聞いたグールドは「これがシャイな音楽だって?」と言うなり「ピアノのための変奏曲」の第2楽章を弾き始める。そして、そのあとに「これがシャイな音楽だよ」と言って弾くのはシューベルトの「交響曲第5番」だ。
- Schubert - Symphony No.5, 1st. mov - Glenn Gould - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=8ACJEprpfBo
チッカリング製のピアノが奏でるシューベルトは少々乱暴だが、グールドの歌声とともに「ターリ・ランタンタン」というフレーズが次から次へと紡ぎ出されていく。チッカリングの音は粒立ちがよく、そのひとつひとつの粒の間を埋めるのはグールドの歌声だ。最初は右手、そして左手、それから右手、もういちど左手。まるで二人の人間が言葉を交わしているかのようでもある。3度目からは「ター・リラリラ」と世界が広がり、ついに二人そろって同じリズムで言葉を合わせるところで演奏が終わる。シャイなわりには、二人の会話は弾んでいるような気もするけども、このグールドの演奏こそが自分にとってのシューベルトの原点。
では、これに匹敵するオーケストラの演奏はあるのだろうか。それがここにある。ニコラウス・アーノンクールの70歳を記念したコンサート、18分28秒のあたりから。
- Beethoven - "Egmont" . Schubert - Sinfonia n.5 (Harnoncourt) - YouTube
http://www.youtube.com/watch?v=aXeVsbPPm8Q
本当はコンセルトヘボウ管弦楽団を指揮したディスクの方がグールドのテンポ感に近い。しかし、ヨーロッパ室内管弦楽団を指揮したこの演奏はより叙情的であるがゆえに、グールドが言うところの「シャイ」な感じがよく出ているようにも思う。おもしろいのは、グールドもアーノンクールもバロック音楽に精通していることだ。アーノンクールの著書のタイトルにもあるように、バロック音楽の本質は「語り」であり「対話」であって、それはシューベルトの音楽にもしっかりと受け継がれている。
と、ここまで書いたところで時間切れ。くにバロの練習に行くのであった。