バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 ブリテン「ラクリメ - ダウランド歌曲の投影 Op.48a」

 ベンジャミン・ブリテンヴィオラの良き弾き手だったらしく、ヴィオラをソロとする作品をいくつも残している。ヴィオラ弦楽合奏のための「ラクリメ - ダウランド歌曲の投影 Op.48a」もそのひとつ。

 スコットランド生まれのヴィオラの名手、ウィリアム・プリムローズ(William Primrose, 1904-1982)のために作られたこの作品は、もともと独奏ヴィオラとピアノ伴奏によるものだった。1976年にその伴奏部分を弦楽合奏へとあらためた際に「作品48a」という番号が付けられたようだ。1976年というのは、ブリテンが亡くなった年だ。
 「ラクリメ - ダウランド歌曲の投影」はジョン・ダウランドリュート歌曲集第1巻に含まれる「もしぼくの嘆きが If my complaints could passions move」に基づく変奏曲。叶わぬ愛を歌うメランコリックな歌詞はこのように終わる。

Die shall my hopes, but not my faith,
That you that of my fall may hearers be
May here despair, which truly saith,
I was more true to Love than Love to me.
 
ぼくの希望は死んでも、まことの心は死なぬ
ぼくの滅びの噂を耳にする人々よ、絶望するがいい
ぼくの心の語る言葉に偽りはない
「愛の神がぼくを裏切っても、ぼくが愛の神を裏切ったことはない」
 ―― ジョン・ダウランドリュート歌曲全集」訳詞より

 この歌曲はヴィオラ弦楽合奏により様々に変奏された後、曲の一番最後のところで、後半部分がほぼ原曲通りの姿で登場する。普通なら変奏されるごとに作品の内的世界が拡大していくのだが、この曲に限っては、あらかじめ定められた消失点(vanishing point)へと収束していくかのようだ。ベルクのヴァイオリン協奏曲でJ.S.バッハのコラールが出現するのと同じく、それは遠い記憶の中へと連れ戻される印象的な瞬間。命の灯火が消えかかる間際に、ブリテンはどんな思いで編曲に取り組んだのだろう。