バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 NHK交響楽団第1756回定期公演

 チケット売り切れとかいうから満員御礼かと思ったら、自分の両隣の席からして空席。なんだよそれ。今日のコンサートを聴けなかった人は残念だったな。いや、まじで。

 生まれて初めてのナマ譚盾(タン・ドゥン, Tan Dun, 1957- )だから、いそいそと仕事を切り上げてサントリーホールへ。彼の作品を聴いて、心の底から揺さぶられる思いがした。
 1曲目のマリンバ協奏曲「The Tears of Nature」(日本の津波犠牲者の追憶に)では、蕩々と流れる哀歌のメロディーが途切れ、遠くで鳴る非常ベルのようにトライアングルのトレモロが響くところでドキリ。世界初演となった「女書」では、舞台の上に掲げられた3面のスクリーンにNHKのドキュメンタリーで紹介されていた歌の場面が映し出され、舞台上の独奏ハープとオーケストラは、その歌と映像と共に女性たちの様々な歴史を紡いでゆく。
 作曲者はドキュメンタリーにおいて「この交響曲で女書文化を詳細に記録したい」と言っていたが、その目的は充分に達成されていたのではないか。会場で配布された作品解説ではエピローグとなる終楽章についてこう書かれている。

今日、池は彼女たちの楽器となり、水の太鼓となる。池の面は太鼓の皮のように、雨だれ石をうがつリズムを生みだし、水辺で夢を歌い出す。

 これだけだとよくわからないかもしれないけど、池や水というのは、女書を書いた女性たち、女書に書かれた女性たちが流す涙につながっている。一筋の涙が集まって池となり、楽器となり、人の心を揺さぶったということになるのだろう。

 女書という記録とそれにまつわる様々な記憶が、「映像」と「音楽」と「水」のコラボレーションによって、未来に生きる力を与えられる。それは記録というものが記憶の中に刻み込まれる瞬間でもあったのだよ。