バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 「古楽の楽しみ」の楽しみ

 朝6時になると、目覚まし代わりにNHK-FMが鳴るようにしている。平日なら「古楽の楽しみ」でバロック音楽を聴くわけだが、土曜日は「現代の音楽」でドッカン・ガラガラ、日曜日は、というと「能楽鑑賞」で「いよ〜っ」とかいうのを聴くことになる。
 もちろんそういうのが嫌いではないけれども、くにバロの練習がある日に「いよ〜ぉっ!」という声で目が覚めると、けっこうつらい。身体の調子をヴィヴァルディやリュリのテンションへ持って行くのに骨が折れる。「音楽というのは決して世界共通のものではないのだ」ということを実感する貴重な瞬間であることは確かなんだが。
 今週の「古楽の楽しみ」はJ.S.バッハの「ブランデンブルク協奏曲」を特集していて、同じ曲を新・旧の演奏で比較するなど、大変おもしろい内容だった。特に2本のリコーダーが加わる第4番ト長調BWV1049では、ヘ長調に移調された編曲作品「チェンバロ協奏曲第6番ヘ長調 BWV1057」まで登場。おまけにその演奏が、現在のピッチより1音低いティーフカンマートーンを採用して変ホ長調で響いていたので、早朝の朦朧とした頭と耳では、「何の曲だかよくわからないけど、よく知っているような気がするヘンな曲」みたいに聴こえておかしかった。
 以前にもまとめたことだが、現代のピッチ(440Hzあたり)、古楽器で一般的な半音低いピッチ、(415Hzくらい)、そしてティーフカンマートーンとかフランスのバロック・オペラのピッチ(392Hz)では、聴いたときの印象がずいぶん違う。そのあたりを「ブランデンブルク協奏曲第4番ト長調 BWV1049」の第3楽章を例にして、もう一度おさらいしておこうか。丸カッコの中は、現代のピッチだとだいたい何調に聴こえるかというガイド。
1. 現代のピッチ(ト長調

2. 古楽器で一般的なa1=415Hz (変ト長調嬰ヘ長調

3. 現代ピッチから約1音低いa1=392Hzのあたり (ヘ長調

 さて、そこで「チェンバロ協奏曲第6番ヘ長調 BWV1057」の登場である。バッハは他の楽器のために書いた協奏曲のソロ・パートを鍵盤楽器のために書き改める際、楽器の音域に合わせ「1音低く」することが多かった。「ブランデンブルク協奏曲第4番」も、ソロ・ヴァイオリンのパートを鍵盤楽器に置き換えるにあたって、曲の調性をト長調からヘ長調に下げた。ということは、現代ピッチで「チェンバロ協奏曲第6番」を演奏すると、調性は「3.」とだいたい同じ高さになるはず。
4. 現代のピッチでBWV1057を演奏すると(ヘ長調

 ピッチが低くなると、なんとなく落ち着いた感じに聴こえるが、「ブランデンブルク」ではプレストだったテンポ表示が、チェンバロ協奏曲ではアレグロ・アッサイと若干遅めになっており、その傾向に拍車を掛ける。
5. 古楽器のピッチでBWV1057を演奏すると(ホ長調

 ここでようやく「古楽の楽しみ」でかかっていたティーフカンマートーンのBWV1057に順番がまわってくるわけだが、YouTubeには音源がなかったので、JPCで公開されているサンプルで代用。リンク先のページにある9トラック目「3. Allegro assai」の右の方にある三角矢印をクリック。
6. ティーフカンマートーンでBWV1057を演奏すると(変ホ長調

 さらにノンビリして、丁々発止のやりとりが、たわいのないおしゃべりになってしまったじゃないか。ト長調から変ホ長調まで長3度も下がったら、もう「ブランデンブルク」じゃない別の曲だよ!
 というわけで、ラジオから流れる和やかな音楽を聴きながら、さらに深い眠りにつくのであった。ああ、音楽って素晴らしい。バロック音楽ばんざい。
 
Brandenburg Concertos