バシッといこうぜぃ blog

バロック音楽や弦楽合奏曲を中心にいろいろ。

 ジェミニアーニ「合奏協奏曲 第10番 ヘ長調」(コレッリ「ヴァイオリン・ソナタ」作品5-10による)について

 くにたちバロックアンサンブルの第12回演奏会へ向けての活動が始動している。今のところ、演奏曲目としてヘレンダール、ヘンデルジェミニアーニという人たちの作品が決まっている。ヘレンダールはオランダ出身、ヘンデルはドイツ、ジェミニアーニはイタリアの出身だが、3人ともイギリスで活躍したという共通点を持つ。

  1. ヘレンダール「グランド・コンチェルト」作品3から第2番 ニ短調
  2. ヘンデル「オペラ〈ロドリーゴ〉」序曲
  3. ジェミニアーニ「合奏協奏曲 第10番 ヘ長調 H.141」(コレッリソナタ集 作品5による)

 昨日はようやく準備の整ったフランチェスコ・ジェミニアーニ(Geminiani Xaverio Francesco, 1687-1762)の楽譜を配布して、1時間半くらいみっちりと練習した。第10番には未だ現代譜がないようで、パート譜は「ペトルッチ楽譜ライブラリー」にパブリック・ドメインとなってアップロードされている1729年刊行の楽譜を使った。

 この曲が含まれる合奏協奏曲集は、コレッリの有名な「ヴァイオリン・ソナタ作品5」全12曲をジェミニアーニが合奏協奏曲仕立てにしたものだ。その中でもよく演奏される第12番「ラ・フォリア」は現代譜(スコアとパート譜)がきちんと刊行されているが、第10番に関してはそもそもスコアが出版されていないらしい。では、がんばって楽譜を作るかなと思っていたところ、くにバロのコンミス女史がわざわざパート譜からスコアを起こしてくれた。ありがたし。
 ところで、ジェミニアーニの楽譜と著作は、現在「作品全集」として、ボローニャのUt Orpheus社から批判校訂版(Critical Edition)の刊行が進められている。

全体の監修はクリストファー・ホグウッドが行い、2014年9月1日現在、全17巻中、5巻、6巻、8巻、12巻、15巻が刊行されている。だがコレッリの作品5による合奏協奏曲は第7巻で、まだ順番待ち状態。

 パート譜から起こされたスコアを見ると、コンチェルティーノとリピエーノで、同じフレーズに対して違うスラーがかけられていたりしている。今回は原曲の初版譜を参考にしつつ、コンチェルティーノの表記を優先させようと思っているが、批判校訂版ではこのような問題を、何を根拠に、どのように解決しているのだろうか?一日も早い刊行が待たれるところであるな。

 

 フランス・ブリュッヘン追悼

 2014年8月13日、フランス・ブリュッヘン(Frans Brüggen, 1934-2014)がアムステルダムの自宅で亡くなった。8月13日というのは、山田一雄の命日と同じ日なのだそうだ。生まれ月も同じ10月、ヤマカズの享年は78歳だったがブリュッヘンは79歳。

 自分にとってブリュッヘンとは、18世紀オーケストラとともに音楽を創造した人であった。1980年代頃の音楽雑誌に、「フランスは本当にラモーが大好き」という18世紀オーケストラの日本人メンバーによるコメントが掲載されていたように記憶しているが、ついにこのコンビのラモーを実演で聴くことはなかった。チケットは発売されたが中止となってしまった幻の初来日プログラムがラモーとベートーヴェンだったので、「それが実現していたら」と強く思わずにはいられない。
 YouTubeにはブリュッヘン18世紀オーケストラが2013年に演奏した「ボレアド」のヴィデオがある。オーケストラを指揮するブリュッヘンの手は穏やかな、本当に穏やかな時間を紡いでおり、オーケストラもその時間を共有しているのがわかる。ここにいるのは指揮者とオーケストラではなく、ただ時間を紡ぐ者と楽器を奏でる者だけだ。そして、ここにこそ彼らが最後に到達した境地があるのではないか。 合掌。

 エミリー・オータムが奏でるロナーティ「チャッコーナ」の響き

 ゴスロリ・ファッションでエレクトリック・ヴァイオリンを弾きまくっているのは、先週フェイスブックで話題になってたエミリー・オータム(Emilie Autumn)J.S.バッハ無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番」のアルマンドで始め、バロック風のモチーフをちりばめながらヴィヴァルディっぽく終わるパラフレーズは、高度なテクニックでヴァイオリンが唸りを上げ、緊張の糸が途切れることがない。これはすごいぞ。

 YouTubeを探したら、バロックの作品をオリジナルな形で演奏しているのがあった。たとえば、このカルロ・アンブロジオ・ロナーティ(Carlo Ambrogio Lonati, 1645-1715)のチャコーナ。1997年のライヴ・レコーディングとのことだが、バロック・ヴァイオリンを片手にメリハリの効いた情熱的な演奏を繰り広げる。ちなみに作曲者ロナーティは、コレッリに師事する前のジェミニアーニのヴァイオリンの師。

 感心したのは、無駄にアグレッシブな感じを気取って、極端に走ることがないところ。だから、表現の幅が広いにもかかわらず、バロック音楽のスタイルを逸脱しているようには決して聴こえない。そして彼女のヴァイオリンの音からは、彼女自身の声や生き様が聴こえてくるような気がする。私たちは、こういうバロック・プレイヤーを待っていたのではないのか。
 ネットを探すとエミリー女史がバロック・ヴァイオリンを弾いている様子を写した画像があった。それによると、弓は山形に反ったバロック・ボウ、顎当てはないようだが、肩当てを使っているように見える。

 というわけで、ロナーティのほかにもコレッリオルティスなどの作品が収録されてる“Laced/Unlaced”というCDを買ってしまった。まあ、その全曲はYouTubeで聴くこともできるのではあったのだけれど。
   Laced / Unlaced
 

 フライブルク・バロック・オーケストラが奏でるコレッリ「クリスマス協奏曲」の響き

 今日から3連休。くにバロの練習で使うヘレンダールのパート譜の準備というのが連休中の宿題だ。18世紀に出版されたパート譜には小節数が振られていないので、まずはその書き込み。それからスコアと照合して間違い探しなどをしながら、フレージングなどを書き込む。どれもけっこう手間がかかる作業なのだけど、楽譜を配る前にしておくかどうかで、練習効率も変わってくるからがんばってやる。
 とかいいながら、“気分転換で”YouTubeを観てたら、フライブルクバロック・オーケストラ(FBO)がコレッリ「合奏協奏曲 ト短調 Op.6-8」いわゆる「クリスマス協奏曲」を演奏しているヴィデオを発見。アグレッシヴな演出を無理矢理施すことなく、丁寧な感じに仕上がっているのが素晴らしい。

 最終楽章のパストラールは、最近では珍しい遅めのテンポで静かに演奏されている。通奏低音で使われているオルガンとリュートがコンチェルティーノを暖かくまとめ上げていて、揺り籠に揺られる子供を静かに寝かしつけるように終わる頃には、こちらの荒れた心の中もずいぶんと落ち着いてくる。魂が静謐(せいひつ)な状態に至るとは、まさにバロック音楽のあるべき姿を理想的に実現していると言えるのではないかな。コレッリやヴィヴァルディの器楽作品を演奏する際、「極端」だったり「挑発的」なものを追い被せるような流行があったけれども、FBOのように、作品の中にあるものを聴き手の心の中へ染み渡らせるような演奏が増えることを願わずにはいられない。
 

 ヘレンダール「グランド・コンチェルト」全6曲制覇へ向けて

 くにたちバロックアンサンブルの第11回演奏会が無事終わり、少しは暇になるかと思ったら全然そんなことはなくて、6月29日から、来年の演奏会へ向けて恒例の選曲大会が始まった。第1回目の選曲大会では、ヘンデルやらジェミニアーニやらを試奏してみたが、ヘレンダールの6曲からなる「グランド・コンチェルト(合奏協奏曲)」のうち、まだ演奏したことのない「ニ短調 作品3-2」が次回の演奏曲目に決定した。
 このニ短調のコンチェルトは、6曲の中で一番短く12分くらいの作品。短いから簡単かというと、全然そんなことはなくて、コンパクトなサイズの中に劇的とも言える要素が詰め込まれている。今、楽譜の準備をしている最中だが、例によってフレーズをどうとるか、アーティキュレーションをどう付けるか、リズムは楽譜通りにするのか等々を楽譜に書き込む準備をしている。
 第11回演奏会でお客様に書いて頂いたアンケートを見ると、三鷹におけるヘレンダールの認知度は確実に上がっており、中には「ヘレンダールは貴コンサートで初めて知り、CDを買いました」と書いて下さった方もいらっしゃる。余り知られていない作品を演奏して、「良い曲ですね」と言っていただけるのは本当にうれしい。

 さて、パート譜に小節番号も振らなければならないし、次の練習に間に合うかどうかちょっと微妙だけど、もう少しがんばろうか。

 くにたちバロックアンサンブル第11回演奏会を終えて

 先週の土曜日、2014年6月21日に三鷹市芸術文化センター「風のホール」で「くにたちバロックアンサンブル第11回演奏会」を開催しました。梅雨だというのに天候が崩れることもなく、これまでで一番多くのお客様(たぶん250名くらい)にご来場いただきました。本当にありがたいことで、この場を借りて御礼申し上げます。
 最近は演奏が終わると団員と一緒にロビーに出てご挨拶をすることが恒例となっていますが、今回はずいぶんたくさんのお客様がアンケートにご記入いただいていて、少しびっくりしました。回収したアンケート用紙は107枚だったとのことで、回収率43パーセントくらいでしょうかね。打ち上げまでの時間に50枚ほど読ませて頂きましたが、なんとなく「ヘレンダールの名前がずいぶん浸透してきたな」という印象を持ちました。たぶん、日本で一番ヘレンダールの作品の生演奏に触れているのは、三鷹市の方々だと思います。ええ、間違いなくそうだと思いますよ。
 というわけで、演奏会当日のスピーチ原稿を記録としてここに掲載しておきます。

【リュリの演奏後に】
 本日はお忙しい中、私共くにたちバロックアンサンブルの演奏会にお越し頂きありがとうございました。
 今日の演奏会では、17世紀の作曲家リュリとパーセルの舞台音楽の間に18世紀に活躍した作曲家、ヘレンダールとヴィヴァルディの合奏協奏曲を挟むようなプログラムを組んでみました。いつもより盛りだくさんな内容になっていますので、最後までごゆっくりお楽しみ頂ければと思います。
 

【ヘレンダール】
 さて、次に演奏するヘレンダールの「合奏協奏曲」ですが、2010年から毎年1曲ずつ演奏して今年が5曲目となります。昨年は4分の6拍子、つまり3拍子系の行進曲という少し変わった曲で締めくくられる第3番を演奏しましたが、これから演奏する第5番も最後の楽章が行進曲となっています。5番の行進曲は普通の2拍子ですがとても堂々として、立派な品格を備えています。一方でこの合奏協奏曲の始まり、つまり第1楽章は、ゆったりしていてやさしく何かを語りかけるような音楽となっています。
 では、その間はどのようにつながれていくのか?ぜひそんなところもポイントにして聴いていただければと思います。
 それでは、チューニングの後にヘレンダールの合奏協奏曲作品3の5を演奏いたします。
 

★休憩★
 

【ヴィヴァルディ】
 休憩も無事終わったようなので、後半のプログラムに移らせて頂きたいと思います。
 後半の1曲目としてヴィヴァルディ「調和の霊感」から第2番を演奏いたします。これはちょっと面白い作品で、第1楽章に「スピカートで」という演奏上の指示がついています。スピカートというのは弓を跳ねさせて演奏するという弾き方です。ヴィヴァルディはたまに具体的な演奏方法を楽譜に書くことがあるのですが、今日はその「スピカート」を「風のホール」の会場の大きさにあわせて少し工夫するようなやり方で演奏してみたいと思っています。
 それでは、チューニングの後にヴィヴァルディ「調和の霊感」作品3から第2番を演奏いたします。
 

パーセル
 さて、コンサートも大詰めとなってまいりました。本日最後に演奏するのは17世紀イギリスの作曲家、ヘンリー・パーセルセミ・オペラ「アーサー王」からの組曲です。
 「アーサー王」の音楽というのはとてもバラエティに富んでいて、パーセルらしいメロディーの綺麗な曲はもちろんのこと、ホーンパイプに代表されるイギリスの舞曲、リュリのようなフランス風の音楽、そしてパーセルよりひと世代前のイタリア風の音楽など、様々なスタイルの音楽がてんこ盛りのようになっています。
 今日は特にこのイタリア音楽っぽい第5曲目で、くにたちバロックアンサンブルでは初めてとなるトランペットの方々と共演させていただけることとなりました。どうぞよろしくお願いいたします。
 また、今回は「ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ」をお借りすることもでき、この5曲目のシンフォニーでチェロやコントラバスと一緒に演奏したいと思っています。
 それから、7曲目の「霜の踊り」、冬の凍てつくような寒さのなかでのフローズン・ダンスでは、ちょっと変わったことをやっているので、楽しみにしていて下さい。
 それでは、チューニングの後にパーセルセミ・オペラ「アーサー王」からの組曲を演奏いたします。

くにバロ第11回演奏会ポスター

 

 ArParlaが奏でるムファット「ヴァイオリン・ソナタ」の響き

 ゲオルク・ムファット(ムッファト)(Georg Muffat, 1653-1704)のヴァイオリン・ソナタは、彼の作品の中で、唯一自筆譜が残されているものなのだそうだ。冒頭のテーマが最後に戻ってくる“アーチ型”とも言えるその構成は「調和の霊感」のパッサガーリャと同じで、聴き手に忘れがたい印象を与える。

 「二度目に演奏する際には適切な装飾を加えるべし」というバロック音楽の流儀に則った演奏をYouTubeで発見。音の数は多いけど、「音を鏤めてキラキラに装飾してみました」というのではなく、「作品の内容をより詳しく語ったらこうなった」という感じなっているのが素晴らしい。

 伴奏はハープのみと極めてシンプルだが、ただ和音を補充するのではなく、常にヴァイオリンとともに何かを語りかけている。つま弾かれるハープの音がヴァイオリンの響きにまとわりつくようにして光を放つ光景が、ヴィデオからもよく伝わってくるのではないかな。演奏しているのは Arparla 。ヴァイオリンのダヴィデ・モンティ(Davide Monti)氏とハープのマリア・クリスティーナ・クリアリー(Maria Christina Cleary)女史の二人。